Cultivator - 1

2008/06/01 | しょーせつ

森を越え、山を越え、およそ一般人が越えられるとは思えない渓谷地帯をも越えて、とうとう俺は倒れた。やったね! 元々目的なんざなかった。ここまで無茶すれば十分だろ。ふふふ。俺は目を閉じ、祈る。別に助かりたいなんて思ってない。

「次に産まれるときは、もっと幸せな人生をおくれますように」


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目を覚ます。視界はぼやけていたがすぐいつも通りの見え方になった。見慣れぬ小綺麗な部屋、それが天井につるされたライトに照らされ、俺は、ベッドに横になっているのだった。生まれ変わったのか……成長スピード速いなもうこんなデカくなったのかNew俺は……などと思うわけがねーだろ馬鹿、死ねよ、死ねよ俺! 助かってしまったんだなとすぐに把握し、いきなり気分が悪くなった。最悪だ。腹が鳴る。どうやら色々手当されたようだが、依然として空腹。不快だ。うぜぇ……死にたい。

まったくもってつまらない。あのままくたばっていた方が何倍もよかった。荒野を闊歩し飢え死ぬとかかっこよすぎて困る。それに対して今のご身分はどうだ、「無茶な旅をしてぶっ倒れてたところを運良く助けてもらえた迷惑青年」ってとこだろう。俺金持ってないしな。素寒貧の俺をわざわざ治療するんだ、相当な強制労働でもやらされるに違いない。間違いない。お先真っ暗だ。やったね!

そもそもなんでこんなところにまで人間がいるんだよ。周りには過酷な自然環境除いたら何もないじゃないか。最後に人を見てから俺がぶっ倒れた地点までどれだけかかったと思ってるんだ? 十分すぎるほどに持ってきた食料が全部尽きちまうぐらいだぞ? 暮らしてるやつどんな物好きの集まりだよ、ったく。頭おかしいんじゃないの? 沸いてるんじゃないの? キマってんじゃないの? ほんとに人間とやらは地球を巣くうウイルスだなっ。はやいとこ全滅しとけよ。

……それはともかく腹が減った。なにかないのかねなにか! 強制労働なら1モルくらいはしてやってもいいから……いやごめん嘘、面倒だったらすぐ逃げる。でもとにかく飯をよこせ。こんなベッドの上じゃ餓死もできやしねーって。

オーケーオーケーとりあえず部屋脱走してみるか。窓がないんじゃドアから堂々と出ていくしかあるまい。立ち上がって部屋のドアを開ける。嘘ぴょん。全然開きませんでした! やったね! 開かない開かなーい! へへへっ、まぁ開かないよな、こういう場合! わかってんだよそれくらい。ただ一応、露ほどの望みを捨てなかったというだけの話だよ。わかってんだよ、部屋の中で俺を拉致ってる善人面した奴隷商を待ち呆けることしかできないなんてことは。

俺は相当に腹が減っていたがそれと同時に相当に暇だった。無意味に部屋をうろついてみたが俺の興味をひくものなんてあるわけがなかった。しかも体がだるい。やってられない。死にたい。

もう何もかも面倒になったのでおとなしく寝ちまおうと思った。ベッドに戻る。するとベッド横の小さな台に何か手書きされている紙発見。うっほほーい灯台もと暗し。もっとわかりやすく置いておいてくれ能なし奴隷商さん。目を通してやることにする。ありがちな丸字。女が書いたもののようだ。

「私たちの町へようこそ、皆をあげまして歓迎いたします。お目覚めになられましたらドアを強くノックして下さいませ。お料理を手配いたします」

歓迎……ねぇ。何か意外だが、飯が食えるならそれでいいや。奴隷商の考えることはよくわからない。考えるだけ頭が腐りそうだった。

で、ドアをノックすりゃよかったのかよ。そういうことは先に言え馬鹿。言えないのか。じゃあせめて人を一人置いておけ馬鹿。こっちは餓死しかかってんだぞ。助けるならとことん助ける、助けないなら放置する。どっちかにしてほしいものだ。

ドアの所まで歩いて、ドアをコンコンとノックする。反応はない。腹が立つ。「強くノック」だと? 了解だよ馬鹿、やってやんようんこ共オラオラオラオラオラオラ!

渾身の力を込めてノックする。

バゴッ! バゴッ! バゴッ! バゴッ!

ノックというか既にそれはパンチに他ならないパワーだすごいすごい俺選手ドアにブローの嵐ぃいいいこーれはKOかああああああああああ別に何も起こらないだとぉ!? あぁ!? ふざけてんのかファッキンドア! ほんとに犯すぞこのまんこドア! もっと強く叩けと、そういうことか!? そういうことカナァ!?

俺はその拳に我が怒りの全てを込めて気合いを溜め、いわゆるひとつの奥義・マグナムブロー発動の準備に移った。

溜めゲージうぃぃぃぃん。空腹のせいかスピードが遅い。むかつく。待つ。

うぃぃぃぃん。溜めゲージ80%にしてドアの向こうから足音が聞こえてきた。ちっ、今さらきやがったよ! 空気読めよ。KYだよ。死ねよ。だがそうこうしていると溜めゲージは90%を上回りつつあった。部屋のドアに鍵が差し込まれる音がして――ふむ、これなら行ける!――ドアが開くと

「奥義ぃいいいいいいマグナム・ブローゥウウウウウ!!!!」

人間が立っていた。ひょっとしたら人間じゃないかも妖精さんかもウルフマンかも? とか思っていたが人間だった。これまた、つまらん。

ボシュッッッッ!!!

女の人だが残念なことに若くはない。その顔面の右10センチに奥義マグナムブローが炸裂する。適当に助けた挙げ句に飯も食わせず放置するようなうんこ奴隷商に手加減する気はさらさらなかったが当たらないのはかっこ悪い。いじめかっこ悪い。死にたい。

「中らずといえども遠からず……か」

とりあえず適当に何か言っておく。俺の溜めパンチ、じゃなかった奥義マグナムブローを実力というにはあまりに偶然性が高く、そう、それをたまたま運良く回避することにかろうじて成功してしまったよーってな感じのその女性は、顔立ちがいいので年齢より若くみられるタイプではあるんだろうが、やはり俺の年齢の二倍くらい行ってそうな予感がする。4文字要約すればおばさんだ。おばさんのHPは低そうだからマグナムブローを食らっていたら昇天だっただろう。ふふふ。

おばさんO(←おばさんだからOなんだよ☆ミ)は数秒俺のマグナムブローの風圧で身動きが取れないようだったが、ようやく口を開きましたとさ。

「そ、その……大変お待たせいたしました」

と頭を下げて謝ってくるわりには、食い物らしき物をもってきていないようだ。うんこかっての! どんだけだよ! 何ももってきてないくせに彼女は当然のように俺の反応をうかがっている。ふざけるんじゃねーおばさんO。ファッキンおばさんO。犯さないけど。

「さすが男性ですね……このような出迎えに会うとは、さすがのわたくしも思いませんでした」

このような出迎えに会うと思ってねーってのはこっちのセリフだおばさんO! しかもおばさんO、あんたさ、なんていうの、久々に獲物を見つけた肉食動物みたいな目だよ! おいおい助けて。たすけておばさんO。じゃなかったおばさんOは敵だ。助けて俺。やっぱ奴隷商だろおばさんO。食べ物はいいから逃げなきゃ! 逃げなきゃ飼い殺されちゃう!

思うが、おばさんOはタイミングよく俺を釣り上げようと巧妙に俺を誘い出す。

「お食事の準備が整いました。会場の方までご案内いたします」

会場ときやがったか! 会場ときやがったか! 大事なことなので二度言いました! あれだな、俺みたいな強制労働者がブタのような扱いで飯なのか肥料なのかわからねぇようなものを食わされる食堂みたいのがあるわけだな? やっぱりここは養豚場なんだな? 盲腸とか売り払ってる闇組織だろ? 人間ソーセージだろ?

だがだがだが! 今ここで全力で走って逃げれば逃げ切れると思うが、腹は減ったのだ! ここで逃げれば、きっとこのうんこみたいな臭いを発してやまない施設から半径十キロくらいのところで餓死だろう! そんなのはごめんだ! 俺は荒野で死ななくてはいけない! うんこじゃないんだからこんな施設周辺で死ねるかうんこ野郎!

しかしそんな俺の思考なんぞお構いなしに女はすらすら続けやがります。

「顔色が良くないですね。お体の方まだすぐれませんか。よく歩けないようでしたら車椅子もございますが」

じゃなくて飯食ってないの! おばさんOさぁ、あんた俺がなんで倒れたかわかってないでしょ飯がなくなって疲れてばたっと行ったわけよなんか毒きのこ食って倒れたとかそんなうんこみたいなうんこ行為をするわけなかろうが俺が! しゃーねー、飯だけ食ってトンズラするか、そんで荒野で俺は死ぬ。一時的にうんこ臭い飯を食ってもこの施設さえ離れれば臭いもしまい、問題なしだ。そうだろ? そうだろ? そうに決まってる!

顔をニコッとやさしい感じに変形させて。

「あ、いや、大丈夫ですよ、歩けます。会場へ案内していただけますか」

まろやかボイスを発した。

俺の圧倒的演技力には我ながら脱帽ものだ。万死に値するキモさである。こんなおべんちゃらで世の中を渡って若干の財産を築いてうんこ臭く死ぬのはごめんだよほんと? だがこういう状況下では一時的に、うんこ臭いのを我慢しておべんちゃらモード発動しなければならないこともまた事実だろう。千里の道もうんこから、である。備えあればうんこなし、である。

「申し訳ありませんでしたね、部屋の中でお待たせしてしまって」

お待たせというよりはむしろ監禁状態だったんだが追究はしないでおいてあげるよおばさんOに親愛の情を込めて。嘘。一切込めないけど。

「いえいえ~、助けてもらったのは僕の方ですし、そんなことは何とも思っていませんよ。というより、なんとお礼を言っていいものか、はははっ」

「お礼だなんてとんでもありません。こちらがお礼を言いたいくらいで……あ、いえ、その……」

うはあ! これはこれは言ってくれるぜ。助けておいてこちらがお礼だと? 強制労働させる気満々です。元とる気満々です。口滑らせて焦っちゃった感満々です。まぁどうせトンズラこくんだ、気づかないフリでもしておこうかい。

「はは、料理までいただけるなんて、この上ないですよ」

「はい、いろいろとご用意いたしました。お口に合うと良いのですが」

ふむ? ブタ扱いじゃないのか? もしかして本当に良心的に扱ってくれてるのかもしれんな。……いやいや、それにしてもさっきの発言は強制労働させる気としか思えない。気を抜いては速攻24時間きまぐれうんこタイムに突入だろう。……いずれにしろ、腹が減っては戦もできんし逃走もできんしかっこよくも死ねない。飯食いながら考えよう。そうしよう。可決!

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