12RIVEN (5)

2008/04/21 | かんそう

まずは,公式ページにある意味深な文面たちから見ていこう.

(Introduction -> 1 ページ目)

物語は錬丸視点、鳴海視点で展開し、それぞれの視点の問題を解決する事で、ミュウを守り第弐エクリプス計画を阻止する事ができる。

まず、錬丸視点では、ミュウを守りながら時の止まった世界からの脱出を模索し、鳴海視点では第弐エクリプス計画を阻止すべく奮闘努力する。

そして、それらの視点で一通り問題を解決すると……各キャラクターが何者で、どんな仕掛けで事件が起こり……などなど、謎が解決していく「∫ルート」が開放される。

その、「∫ルート」をすすめると晴れて、ミュウを守り第弐エクリプス計画を阻止できるのだが、それはハッピーエンドか。それともバッドエンドか……

公式ページに堂々と「錬丸視点」「鳴海視点」それぞれをクリアすると「∫ルート」が開いて,そこで「各キャラクターが何者で」「どんな仕掛けで事件が起こ」っているのかなどの「謎が解決していく」という情報が筒抜けになっている.

さらにそれぞれのルートの具体的な中身も,かなり的確に表現してある.序盤中盤の本文なんかよりはよほど的確だ.

まぁここまではそこまで怪しくないとしても,「∫ルートをすすめると」「ミュウを守り第弐エクリプス計画を阻止できる」 という完全な結末まで明記してある.さも重要ではないかのようにだ.

そこに書いてある内容にとどまらない大どんでん返し展開があるかというと,ない.構造的な謎解きが絡んでいるため上記の文面からストーリーの全容がわかるわけではないが,「お話」 としての 12RIVEN の結末は完全に公式ページに記載されていると言える.つけ加えるなら,構造的な謎解き要素についても,「どんな仕掛けで事件が起こり」 という形でその存在が示されていて,「解決していく」と,本文中で解決することまで明記してある.

以上のことから 「確かに『お話』としても読めるし完結してるように書いたけど,そこはさして重要ではないのだよ」 という作り手のメッセージが汲み取れる.

お話としての展開は明らかに Remember11 よりも Ever11 よりもリズムがあって面白かった.で,そこから 「次にどうなるのかな,わくわく」 みたいな面白さを意図した部分が大きい作品だろという見方が出てくるわけだが,そういう方針ならこの公式ページの記述に説明がつかない.そういう普通の小説的な「結末がどうなるのか」を面白さの核にする作品なら,公式ページにこんなネタバレをすることはありえないからだ.やはり,作り手の側にメタった読み方を推奨するという意図があることをほのめかして感じられる.

さらにダメ押しすれば,「ミュウを守り第弐エクリプス計画を阻止できる」 とまで書いておいて 「それはハッピーエンドか。それともバッドエンドか……」 なんて書いてあるじゃないか.ヒロインは助かり計画も阻止.誰がどう読んでもハッピーエンドのはずである. なのに,なのに,「それはハッピーエンドか。」 と続く.そして本文でも,特にひっかかる点は(一応第三の話とか出てるけど)なく,キスして綺麗にハッピーエンド.

おかしい話である.こういう作品はある意味で展開の意外性をウリにしてるはずなのに,まったくそれがない.そこから,この文の真意は,「上の次元から考えたとき,『それは』本当に『ハッピーエンドか』?」 なのではないかと読める.

続いて

(Production Notes)

integral ~新しいエンターテイメントへの挑戦~

というこのページ.メタフィクションという単語があからさまに出現し,普通に Introduction の中の 1 ページとして存在してもいいはずなのにわざわざ 1 メニュー項目を使ってまで integral という単語について解説している.やけにクサいではないか.ただ意味深な内容を置いて期待感を持たせているだけだろう,というような現実的解答は拒否する.考えるというか,妄想するのである.それが楽しむコツ.

まずはここ.

本作ではゲーム世界の次元から現実世界の次元への、その次元を越える操作に『インテグラル』という言葉をあてている。そしてこれが、我々が『インテグラル』に込めた想いである。

前エントリでも書いたけど,こんなこと言っている割に作中で「インテグラル」という単語が「次元を越える」ようなものとして使われることは,(調べてないけどたぶん)一度もない.出てくるのは,「∫ルート」という解答編の名前としてと,インテグラルという(実は二つの)建物の名前として.

前者についてはなぜどうしてその名前なのかということは一切説明がない.錬丸ルートと鳴海ルートに対して突然「∫ルート」.インテグラルというのが今回のテーマに絡んでいるようだ,という認識はしつこすぎるくらいに(インテグラル記号を二つ重ねたマークをリミナリティのマークにするとかして)プレイヤーにすり込んであるからなんとなく 「解答編ってことだな」 という認識になるが,よく考えてみると,いや,よく妄想してみると,「∫ルート」 という名前に説明がなにもついていない.クリアした人でも,二つの視点が交互に書かれるからそれが「インテグラル」なのかな,とか,構造的な種明かしがあるからそれが「インテグラル」なのかな,とか適当な理解にそれぞれ勝手に至るだけ.結局最後まで謎の「∫」である.

で,後者の建物のインテグラルだが,片方はホテル「ル・グランティス」(であってる?)が正式な名前で,アナグラムにすると(s を∫と見立てて) ∫integral になり,錬丸とミュウの間でだけ使われていた呼び方だった,という設定で,もう片方はタワーの名前がインテグラル.しかしこれは比較的どうでもいい設定で,序盤中盤だませればいいかなって程度のもの.本質的なトリックにはなっていない.だというのにわざわざ回想シーンまで用意して,インテグラルとル・グランティスを結びつけたりしている.これにより序盤でやたら意味深に出てきた「インテグラル」なる名前は,本当に「ただの名前」に過ぎないことに.そう,そこでの「インテグラル」はただの名前,意味はもたない.だって,とてもではないがただのアナグラムが「次元を越える操作」に関連するとは思えない.なにがいいたいのかというと,ダミーだろうということ.

結局,「インテグラル」って単語がそれ自体で意味を持って出てくる部分というのは,本文中に存在しない.

たくさん出てきていると見せかけて,実は意味ありげなものは,「∫ルート」という名前にしか現れていない.

これは果たして,制作者側が中途半端な状態で発売に踏み切ってしまった等の事情による不慮の事態だろうか?

こういう解説ページによれば,そういうことになっている.言っておきながらできなかったのだ,だから駄作だ,と.

それは「お話に出てきた中でものを考えましょう」というルールに則るなら正しい理解というか,当然行きつくべき地点だし,間違ってるという気はしない.ただそれではつまらないから,俺は,いや本文中に登場せずともやはりインテグラルは鍵なのだ,と言ってみることにしよう.

そう思う理由リスト:

  • インテグラルを執拗に強調している
    ロゴのバック,サブタイトル,「∫ルート」,リミナリティのバッジ,公式ページに設けられた単語「integral」を解説するためだけのページ.まったく「次元を越える操作」を埋め込まないのだったら,そもそもこんなに強調しなくていい.製作の途中で影を薄くしていって,誤魔化してしまえばいいのである.
  • 本文に出てこない.出てきた「インテグラル」は名前で,ダミー
    作ってる側は馬鹿じゃないという前提条件からいくと,この 「作品外部で強調」 「作品内部ではダミーが登場するだけ」 という矛盾はいろいろ意味をもって感じられる.上記とかぶるが,本当に間に合わず「インテグラル」という仕掛けが盛り込めなかったなら,もうちょっとそれらしい「惜しい」ものになっていてもいいようなもので,名前であるところの「インテグラル」だけが本文中に登場する唯一の「インテグラル」であるなどという極端な事態は普通考えられない.もうちょっと意味のある「インテグラル」が顔を覗かせるか,ダミーの「インテグラル」も廃されていて本文中に全く出てこないか,どっちかのはずである.
  • 公式ページの記述
    以下.

ここまで触れていなかった公式ページからの引用にも,大きなヒントがあるように思う.

本作ではゲーム世界の次元から現実世界の次元への、その次元を越える操作に『インテグラル』という言葉をあてている。

明言している.鍵っぽいのに本文中で「インテグラル」がまったく出てこず,結局なにがインテグラルだったのかわからないという人も安心だ.だって,ここにこうやって書いてある:「インテグラルはゲーム世界の次元から現実世界の次元へ,次元を越える操作」.

つまりこうだ.パッケージや「∫ルート」の「∫」はつまりその記号単体で,プレイヤーに 「次元を越えろ!」 すなわち 「ゲーム内での解釈に終始せず,現実世界の次元で考えろ!」 とメッセージを送り続けているのではないか?

とっぴな解釈.そもそも妄想である.だが,こう考えると続く次の一文もうまく説明できる.

そしてこれが、我々が『インテグラル』に込めた想いである。

この文は一見すると,「インテグラルというものをテーマに,我々はそういう信念で作品を作りました.想いがこもってます」 みたいなどうでもいい文である.だが,実は先に書いたような解釈を後押しする文にもなっているのだ.

すなわち,一文目「インテグラルとは,次元を越える操作である」 -> 二文目「そしてそれこそが,我々が『インテグラル』を使っている意図である」  という具合だ.

これならば,本文中に「インテグラル」らしきものが登場しないのは当然だ.インテグラルとは作中に登場する要素・単語なのではなく,この作品自体に付くタグのようなものと考えられるのだから.

Production Notes というページ名は 「作品の能書き」 のような意味ではなく,字面通り,「作品に関する注意書き」の意だったのだ.

ではタグというのはどういうタグか.全てそのページの中に書いてある.

次元を越える操作に「インテグラル」という言葉をあてている

プレイヤーもゲーム世界のシステムの一つであり、ゲーム全体を構成するのに欠くことができない(中略)そのシステムを本作では「インテグラル」と名付けた

ゲーム世界からより高次へ向かう仕掛けを用意し,物語世界・開発者・プレイヤーをトータルに結びつけ「全体」を作り上げるシステム、それが「インテグラル」

すなわち,「次元を越えて良く」 「プレイヤーが独自解釈を加えてもよく」 「物語のみならず開発者やプレイヤー達含めた『全体』で考えねばならない」 ようなゲームに付くタグである.

特にふたつめ,みっつめについて,なんでそうなるんだ? と思う人は上記引用文を単語レベルに分解して精読してみてほしい.

「プレイヤーもシステムの一つ」 であり 「プレイヤーもゲーム全体を構成するのに欠くことができない」 とある.E17 や R11 という前例があるから,ああいう形でプレイヤーが一方的に作品に「組み込まれる」のだと勘違いしがちだが,どこにもそうは書いていない.プレイヤーは「システム」であり,「構成する」のだ,と書いてある.これとひとつめの「次元を越える」を考えあわせると,要するにプレイヤーはそれ単体では矛盾に満ちあふれてみえる 12R の世界に「システム」として干渉し「構成」していい.これは言い換えれば独自解釈,後付け設定を許容するという宣言ではないか.

三つ目も同様だ.「(ゲーム)全体」は何によって作り上げられるかというと,「物語世界」すなわちゲーム自体に加え,「開発者」と「プレイヤー」であると書いてある.つまり,そういうことである.12R が作品それ単体では矛盾で満ち満ちていることをより一層擁護したいなら,この文の主語を意識すればいい.我々開発者は 「仕掛けを用意し」 「物語世界・開発者・プレイヤー」は「全体を作り上げる」.そう,「物語世界」で完結するように作者は作っていないのだ.作者が汗水垂らして作ったのは,プレイヤーまでもが協力してはじめて「全体」になるような「仕掛け」だ.

その「仕掛け」ってのはたとえば,公式ページというさりげない場に「インテグラル」を読み解く重大なヒントを隠しておくとかである.

だとするならば,今まで俺が繰り広げてきた妄想はまさに意図通りというわけだ.

まあ,誤った仮定からスタートしてその誤り自体を正しいと証明できたところで最初の仮定がやっぱ真でしたということにはならないことくらいは記号論理学不可った俺でもわかるので,「だから俺の考えていることは正しい」というつもりは依然ないが,

こういう風に考えるのもほら,なかなか面白いでしょうということで.

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コメント (3) to 12RIVEN (5)

ay
2008/4/21 月曜日

打越氏は次のように仰ってます。

ttp://www.mechb.net/archives/50397875.html
>“∫”は、このゲームを示すひとつの象徴みたいなものであって、決してメインテーマというわけではないのです。

ay
2008/4/21 月曜日

本件について、身も蓋もないと言うか、割り切った解釈をすると、
監督とライターの認識にすれ違いがあったということです。
公式サイトと記述と実際のゲームのギャップはそうして産まれたわけです。

wh
2008/4/21 月曜日

>> 1
「作者はどこまでも意図している」という立場に立ち,エントリ中のように「開発者も含めて」考えていいとするなら,
その発言すらも深い意図の元で発されたものだと疑り,国語辞典で「象徴」「テーマ」をそれぞれ引いて,
 象徴:芸術において、直接的に表しにくい観念や内容を想像力を媒介にして暗示的に表現する手法。
 テーマ:創作や議論の根本的意図・題目・中心課題など。主題。
という字義から解釈することで,「”∫”はこのゲーム(の極めて特殊なメタ的なあり方)を(暗示的に)示すものであって、決して(創作したゲーム内ストーリーの)要素・主題ではない」と読み替えたりできそうですが,
まぁ実際は >>2 で仰っている通り,ただのすれ違いってところでしょうね.監督との間で軋轢がという記述もあったそうですし…….

そもそもこの作品を売って食っていかなきゃいけない人たちが,市場評価を無視してメタフィクションというある種の芸術的価値のためだけにここまでひねくれたことをやるか,と考えれば,ありえないでしょう.
また,こういう現実世界にはみ出した「仕掛け」を本当に意図して作ったなら,制作陣内でほぼ完璧な統制が取れていたと考えなきゃいけないですが,グラフィックの一件からしても,それは無いだろうという結論になります.

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