映画 デジャヴ(2007) 感想と批評の境界

2009/08/10 | かんそう

直接ストーリーには触れてませんが大事な伏線が割れることうけあい.映画未見で気になる方は回避推奨.

まあ映画が趣味ですとか言えるほど好きでもないし見てもいないんだけど,たまには映画.ゲオの旧作 100 円サービスがすばらしいの.学生と貧乏人に優しいの.深夜に行くと貧乏 DQN っぽい大人と学生とフリーターの中間みたいな残念な人(含俺)しかいないの.

そんなわけでゲオにてある日何らの下調べもせずに,ロングヒットランキング内にあるサスペンスは何かなーと見てみつけたのがこれ 「デジャヴ」.

結果から言えば下調べせずに見て正解だった映画.下調べしてたら終わってた映画.なので,今この文を見て,このエントリを読み終わってから興味があったら見てみてもいいかも,等と考えている方がいれば今すぐディスプレイを殴りつける行為に及ぶなりブラウザ閉じるなりして回避して見ましょう.映画やエロゲシナリオの一本や二本バレても問題ない人は続きを読みましょう.

と二度三度にわたり釘を刺したところで,この作品はいわゆるジャンルがフェイクもの……とまではいかないが,表面的には正体を隠している映画である,とようやっと書くことができるわけだね.

表面的にはサスペンス・本格刑事推理とみせかけて正体は YU-NO でクロチャンでノエインでひぐらしです.ハイ伝わる人には 10 割伝わりましたね.同時にこれら作品のうちいずれかを知っているがその他は知らなかった人とかに大打撃が行くわけですね.まあ層的に問題ない気もするけど怒り心頭な方がもしいらっしゃいましたら(無駄に丁寧)ごめんなさいね.

とそういうジャンルのストーリー.その子細や伏線の張り方とかには特に触れませんが,そのテのシナリオとして,俺が見てきた映画の中では平均レベル以上にはがんばってる感じ.

ちなみに演出や俳優さんはハリウッド映画で制作費 100 億円とからしいのでそんな感じで,変な SF 趣味とか文芸趣味とかなくても普通にアクションだーカーチェイスだーギャーと楽しめることは楽しめる.ただ小さなお友達にはストーリーが消化できないだろうし,パラドックスのなんたるかとか解釈問題がいかにして生じるのかとか,この手の科学的思考に対する教養がないと,ご都合主義に見えたり底の浅い謎解き映画に見えたりするかもです*1

まあエロゲ脳が発達している人なら全く問題ない.ノベルゲームほどこの手の題材について自然に理解し,信念を育てることができる教材はないので…….

という話は文學の人に任せておくとして*2,つまり 「デジャヴ」 は,そういう装置の導入によって,因果律に影響が出ちゃうような話なわけです.表面的にはハリウッドでドカーンなんですけど.

単に本当にそれだけのアクション映画とかであれば,私は未来からやってきた世界を救うぞうおおおおとやって全然問題ないんです*3けど,ミステリだのサスペンスだのでは最初から最後まで因果関係とにらめっこしてるわけで,その辺が変に揺らいでもらうとストーリー全体が危うくなりかねない取り扱い危険物.下手すると 「リアリティがない」 「ご都合主義」 「推理して損した」 と袋だたきです.

しかし一方,危険物であるからこそ作る側にとって,それを手なずけるのがやりがいであったりするし,その手の作品をいくつも知っている鑑賞者の側からしても楽しみな部分になり得るわけだよね.それについて云々するには,本格/アンチ/メタミステリのガチンコバトルを紐解く必要があるわけだが…….

まあそれも文學の人に任せておくとして*4,「デジャヴ」ではどうかというと,表面的には割合すっきり解決し,実はよく考えるとすっきりしてないんだけど,やっぱりすっきりする作品.ちゃんと最後にすっきりできたのが好印象だったので,今回こうやってぶつぶつ書いてる.

さて,まず表面的にすっきりした理由を考えてみると,解釈に困る部分があるんだけど,このストーリーにおいてどのような解釈が適当か,というキーがちゃんと劇中に埋め込んであること.

ちゃんと明示してあるので,作品外部から知識を引っぱってきて,これで読むのが適当なんだよ,いやこれだよ,とか要らない議論をする手間が省け,まともな脳髄がひとつあれば解読できます.

このポイント,この手の作品をきちんと<閉じた>*5作品にするには必須だと思えて.読み取り方はひとそれぞれ,表向きに宣言してぶん投げていい場であれば不要だけど,例えばこの 「デジャヴ」 みたいに,ハリウッド映画としてきちんと終わらせないといけないとなると大事だよなぁと.

映画だとこんな感じで温かく迎え入れられる傾向があるように思うんだけど,これが小説となると,小説内で 「この小説の読み方」 的な文そのものを披露しようものなら,ものすごい勢いで馬鹿にされることがあるじゃない.表現者なら作品で語れ,要らんことを述べるくらいなら伝わるように暗に表現して見せろ……と,言いたいことはわかるんだけど,特定のジャンルにおいては仕方がない気がするんだよな.文字通り作品が外に開いてる作品,なんてのがジャンルとして括られるフリーダムな時代ですからね.

清涼院流水は,この点においては徹底されていて好きだ.彼のまえがき・あとがきは流水大説の読み方指南になっていてウザイ云々という話を聞くが,それも 「本」 の中に収録されている 「内容」 に過ぎないと捉えれば,やはり徹底したメタフィクションなのであって,作品内外を問わず読者を楽しませるという彼の方法論からみれば極々自然でほとんど最適な表現の形とも考えることができるわけで.

という話は例によって文學の人に任せておくとして,「デジャヴ」はそういう 「読み方指南」 がちゃんとついてるのでまず表面的にすっきりしますという話ね.

ところがよく考えるとすっきりしないのだ.この手の良くできた作品にある仕掛けとしての,本編中でも大体の謎は解くけど,全部は解かずに残しておくから鑑賞後にみんなでどうぞ,というやつがご多分に漏れずあるんだけど,それを含めて考えるとどうもね.詳細は他のページにもあったからぐぐってもらうとして,要するに矛盾とか,判定不能かといった,因果律を弄んだがために生じた問題に悩まされることになるわけだ.

こうなって何が困るって,単にシナリオのミスなのか,機転を利かせれば理詰めで解決可能なのか.そのどちらか*6を単に鑑賞者である立場の人には判定する方法がないことだ.

「シナリオの詰めが甘いね」 と思考停止しちゃうことは容易だけど,すぐにそれでは尊敬できない感じだし,何より自分がどこか負けた気分になる.実際,不戦敗をしている可能性は否定できないわけで.

一方理詰めで頑張ろうとすると,どうしても作中の情報だけから読み解けなくなってくる.そのうち 「X は Y の暗示ではないか」 という風に,まずあたかも作中の事項に根拠があるように言い訳をしつつ,徐々に徐々に,勝手解釈の道を走り出してしまう.わかっていてもなかなか気づかないんだこれが.しかも,勝手解釈だからもう全然ダメ,ということは必ずしもなくて,もしかしたらそれが正解かもしれない可能性が(明示されていない以上)付きまとうから厄介.「そんなものは考察とは言わない」と言われたって,自分にとっては理詰めで解決できたように思えたら十分だという場合もあるし.

とにかくその両立場は対立しあうし,実際双方に人が乗っかればすぐにフレームの元だ.しかもどちらが勝者か端から判定不能.不毛もいいところである.この辺の経験は前 12RIVEN やってたときに色々したのであまり他人事ではないのだが.

ところがところが,聞いて驚くなかれ,この 「デジャヴ」 にはこのモヤモヤに対する答えにつながるキーをもが入っていたのだ! すなわち 「理詰めでこのまま考えていいのか,でなければ落としどころはどこか」 という情報が.初めはもしやと思いつつも,結局俺はそのキーで満足して,推理地獄から抜け出すことができた.

そのヒントをも疑い出せばまた同じことなんだけどね.一度宙ぶらりんにされた後に地面を与えられると,もう安心しちゃうっていう.まあ配置されている場所が場所だし,個人的にはもういいや,と.ちなみにその場所っていうのは作中最後の台詞と,タイトル.

そんなわけで,考え込むのが好きな人は最後まで行けばいいし,そうでなければ初めの解決で十分に納得できるだろうし,いずれにしろすっきりする映画でなかなかよかった.

  1. 実際に Yahoo 映画のレビューを見ると,このテの作品の体裁・ルール・限界を理解している層は軒並み高めの評価で,そこまで蘊蓄がない層にはいまいちな評価になっているように思える.別にインテリ映画というわけではないけど. []
  2. 適当に打ってるとすぐ筆というか指が滑るから困る. []
  3. 例えば 「ターミネーター」 がそういう議論で叩かれることはまずない. []
  4. また滑ったらしい.しかし「うみねこ」 はまさにこういう議論の上に成り立つ,というか,こういうメタ議論そのものを作品テーマにしましたというメタメタ作品らしいので,とても期待しつつ,未プレイです! []
  5. とこういう記号を使うとにわかっぽくてとてもいい匂いがします. []
  6. 厳密に言えば 「理詰めではないがファタンタジーとかで解決可能」が正解ということもありうるが. []

Trackback URL

この記事にはまだコメントがついていません。

コメントをどうぞ